70代の会長が変えた、原山台団地のにぎわいづくり

団地にまつわるストーリーを、泉北エリアの情報誌をつくる『RE EDIT〈リ エディット 〉』編集部が、2022年6月よりお届けする「わたしのダンチ・ライフ」。
今回は、11月23日に公社原山台団地で行われた初めての試みを取材しました。自治会が主催する団地住民のための小さなお祭りで、イベントを立ち上げたのは、19年前からこの団地に住む現自治会長の稲谷さんです。
かつてはにぎわいのあった原山台団地ですが、子ども会や老人会が廃止され、コミュニティーのつながりが薄れてきている昨今、団地のにぎわいを取り戻せたらと2022年4月から自治会に参加するようになりました。
天王寺で生まれ、住之江の長屋で育ったという稲谷さん。子どもの頃、近所の人たちと年の暮れにお餅つきをしたことを今でも鮮明に覚えていると言います。「お餅をこねるだけでも楽しかった幼い頃の体験を、今の子どもたちにも味わってもらいたい」そんな思いで、精力的に自治会の活動を行っていた2023年の末、近所のご夫婦の孤独死に直面しました。
「ものすごくショックだった。孤独死を防ぎたい!」と、以前にも増して住民同士の交流を大事にするようになったそうです。「隣に誰が住んでいるか分からないのではいけない。少しずつ住民同士の交流が深まれば、団地に活気が出るのではないか。とりあえず何かやってみよう!」と、自治会の会員さんのアイデアで、バザーとフリーマーケットを開催することが決まりました。
機械メーカーの営業を長年経験し、ご縁をとても大事にされている稲谷さんは、お話上手でポジティブな空気感をまとっています。また、一緒に話をしていると、「協力したい」という気持ちになる魅力をお持ちです。公社の担当者さんのバックアップもあり、公社さんは射的の出店でイベントに協力されていました。
射的の他に、今回の目玉企画の一つ、フリーマーケットには2組の出店がありました。「会長に、子ども連れでもいいよと言ってもらえたので出店しました」という住民さんは、お子さん3人と一緒に参加。小さい頃からずっと原山台団地にお住まいで「小児科のある病院も近い し、自分が育った所なので安心感があるのも良いですね」と満足度も高いそうです。
40年以上住まれている住民さんは、近所に住むお孫さん2人がお手伝いに駆け付けてくれていました。「やってみたいとずっと思っていたんです。終活もぼちぼち進めているのですが捨てるのはもったいないし、SDGsにもかなっているので、まだ使えるものを有効活用してもらえたら。それに、出店してくれる人がこれからもっと増えれば良いなと思って出店を決めました」と、今後の自治会のイベントを前向きに捉えていらっしゃいました。
朝の11時から始まった今回のイベント。開始して間もなくご近所の方々が来られていて、13時の抽選会の時間が近づくと、さらにたくさんの住民さんが列を成していました。この日は、11月にしては肌寒い気温でしたが、お天気に恵まれたので野外での出店も無事に行われました。
最前列に並んでいたのは、6月に引っ越してきたばかりの北野さんファミリー。
堺市の他の地区のご出身だというご夫婦が、お子さんの小学校入学を機に原山台団地へ転入。統合してできた新しい小学校や整備された道がきれいなので住み心地が良く、団地内がとても静かなのもポイントが高いそうです。
くじ引きの列がしばらく続きます。空気清浄機やフライパン、お米などがハズレなしで当たる太っ腹な抽選会。米袋を持った子どもたちの姿にこちらも笑みがこぼれます。くじを引く際はみんな真剣そのもの。
くじ引きを終えた人たちが流れ込み、集会所内にも人が徐々に増えてきました。特に子どもたちに人気だったのが、射的です。公社のスタッフさんが親切にサポートしてくれるので、景品のお菓子をゲットできた子がたくさんいたのはご愛嬌。
集会所内ではバザーが開かれており、昔はスタンダードだった5人用の食器や懐かしいキャラクターの商品など、新品同様の物品がズラリと並びます。取材班も思わず財布のひもが緩みそうな愛らしいぬいぐるみを発見。
たくさんの人が集まった今回のイベント。チラシを作ったのは稲谷さんだそうで、パソコンでの事務作業のほとんどを「暇なのは僕くらいですから」と会長自らこなしているそうです。外の掲示板にも張られていて、手作り感に温かみを感じます。
会場では、続々と若いファミリーが稲谷さんに話しかけに来られていました。「おお〜、元気やったか〜」とフランクに話し合う関係性が何組もあり、日々のコミュニケーションが密に取られていることが分かります。
子どもたちが楽しそうにしている様子を見て「これが目的やった」と手をたたきながら喜ばれる稲谷さんの様子から、会長になってまだ2年ほどの間に、着実に人とのご縁がつながっている光景が見られました。
初めてのイベント開催ということで、どのくらいの人が集まるか不安だったそうですが、たくさんの住民さんが集い、にぎわいが生まれていました。会長の推し進める力と、「僕は何もできないから、やってもらうんですよ」と周りに敬意を表して頼る潔さが、これからのコミュニティー形成の鍵になりそうだと感じた1日でした。